COVERS／THE KING of LIVE RC SUCCESSION

１９８８年８月１５日／ＬＰ／キティレコード

東芝EMIで発売中止になり、世間を巻き込んでの大問題となったアルバム。
当時、ソ連（現ロシア）のチェルノブイリ原子力発電所で放射能漏れ事故があり、原子力行政に対する不安が叫ばれていた。
清志郎としてはそれを含め、政治、戦争、テロリズムなど社会を脅かしている物事に対して、過去の名曲のカバー（替え歌）でプロテストソングを作り、自分なりの意見を発表したかっただけだったのだろう。
それがレコード会社からちゃんとした理由の説明がないまま、突然発売中止となってしまう。新聞には「すばらしすぎて発売できません」という冗談とも皮肉ともわからない東芝EMIからのおわび広告が掲載された。
理由は今もって不明だが、原発製造をも手掛ける親会社の東芝からの圧力、もしくはそれを恐れた東芝EMIの自主規制ではないかと言われている。
清志郎はそれによって一躍「反原発ロック」の時の人にさせられてしまい、驚き、戸惑い、怒り、そして呆れることとなる。
この騒動の最大の論点は言論の自由であって、原発の是非ではないのだ。清志郎の怒りの矛先は東芝、そしてそのすりかわった論点で勘違い報道をするマスコミなどにも向けられることとなる。
原盤を返却されたRCは、古巣のキティレコードからリリースする。皮肉なことにRC初のオリコン初登場１位のアルバムとなる。
カバー集であるため当然RCらしさは薄まっており、洋楽に馴染みがなかった自分は最初あまり好きではなかった。ゲスト・ミュージシャンをふんだんに使ったのも、RC名義のアルバムとしては違和感がある。
ヘヴィーなテーマに対して一部の歌詞がダジャレっぽかったりするのは、説得力という点でもったいない気がする。ひょっとしたらこういった問題を真正面から取り上げることに対する照れ隠しのつもりなのかも知れないが、ちょっといただけない。
とはいえ、「イマジン」をはじめとして、ゾクっとするほど素晴らしい出来のカバー曲があることもたしかである。

明日なき世界（EVE OF DESTRUCTION）

作詞・作曲／P.F.Sloan
日本語詞／高石友也、忌野清志郎

「受験生ブルース」で有名な高石友也の歌が直接のカバー基で、歌詞はほとんどが高石版のまま。オリジナルは1965年に一発ヒットしたバリー・マクガイヤー（Barry McGuire）の「Eve of Destruction 」。
「進軍ラッパが闇の中に響く、潜水艦がジェット機が国を取り巻く」という一節は、何度聞いても背筋がゾクっとする。歌の力を感じる。受験生ブルースしか知らなかったのだが、こんなすごい歌詞を書く人がいたんだ、と思った。

風に吹かれて（BLOWIN' THE WIND）

作詞・作曲／B.Dylan
日本語詞／忌野清志郎

オリジナルはボブ・ディラン（Bob Dylan）の「Blowin' In The Wind 」。

バラバラ（BALLA BALLA）

作詞・作曲／H.Lippok
日本語詞：忌野清志郎、仲井戸麗市

チロル・チョコのＣＦソングにもなったっけ。
オリジナルはレインボウズ（Rainbows）の「Balla Balla」。ドイツのバンドらしい。外国で「Balla Balla」ってどういう意味になるんだろうね？

シークレット・エージェント・マン（SECRET AGENT MAN）

作詞・作曲／P.F.Sloan & S.Barry
日本語詞／忌野清志郎、仲井戸麗市

北朝鮮の工作員・金賢姫（キム・ヒョンヒ）による大韓航空機爆破事件を基にした歌。金賢姫の肉声も入っており、東芝はそれも問題視していたようだ。なぜ朝鮮問題というのはこうもタブー視されるのだろうか？　今もってしてわからない。
演歌の坂本冬美が途中でこぶしをきかせているが、やっぱり違和感がある。
オリジナルはジョニー・リバース（Johnny Rivers）の「Secret Agent Man」。ベンチャーズもカバーしてる。作詞・作曲は「明日なき世界」と同じP.F.Sloanなんだね。

ラヴ・ミー・テンダー（LOVE ME TENDER）

作詞・作曲／E.Presley & V.Matson
日本語詞：忌野清志郎

オリジナルは超大御所・エルビス・プレスリー（Elvis Presley）の「Love Me Tender 」。
プレスリーナンバーが反核ソングになるのはいいとしても、歌詞が「何言ってんだー」といったダジャレでは説得力がないと思う。歌全体では結構ぐっと来るものがあるのに。

黒くぬれ！（PAINT IT BLACK）

作詞・作曲／M.Jagger & K.Richerd
日本語詞：忌野清志郎

オリジナルはローリング・ストーンズ（Rolling Stones）の「Paint it, Black 」。
悪魔的なナンバーだよね。ストーンズは、演奏にシタールとかを使ってるのを見たことがある。

サマー・タイム・ブルース（SUMMERTIME BLUES）

作詞・作曲／E.Cochran & J.Capehart
日本語詞：忌野清志郎

オリジナルはエディ・コクラン（Eddie Cochran）の「Summertime Blues 」。
この有名なナンバーを反原発の曲に仕立てた。
旧友・三浦友和のナレーションや、コミカルに怒鳴り散らす泉谷しげるの声が入っている。
日本語詞の元ネタは子供ばんどの同曲から来ていると思っているのだが、それ以前にも日本語詞の元ネタがあるのかも知れないが。
原発が危ないのはわかるけど、電力ってほんとに余ってるの？
——と当時は書いたが、3.11の大震災後、原発がなくても余剰電力があってまかなっていける、原発を作りたいためにわざと他の発電所を使わないようにしているのではないか、という説が語られるようになった。東京電力をはじめとした「原子力村」の体質からすると、信憑性が高いように思える。当時、歌だけでは伝わらなかった事情だし、我々もそれを真剣に調べようとしなかった。

マネー（MONEY）

作詞・作曲／J.Bradford & B.Gordy Jr.
日本語詞：仲井戸麗市、忌野清志郎

オリジナルはバレット・ストロング（Barret Strong）の「Money (That's What I Want) 」。
チャボがメイン・ヴォーカルを取っており、以前からライブでは演奏されていた。卍固めとかヘッドロックとかの歌詞は、このアルバム用に付け加えたんだと思う。

サン・トワ・マ・ミー（SANS TOI M'A MIE）

作詞・作曲／S.Adamo
日本語詞：T.Iwatani
補作詞：忌野清志郎

オリジナルはシャンソン歌手、アダモ（Adamo）の「Sans Toi M'amie」。
越路吹雪がカバーしたバージョンをベースにしている。
フジテレビのドラマ「やっぱり猫が好き」、映画「バカヤロー」などの主題歌にも使われた。
歌詞カードだと「去って行ったおまえの心」になってるけど「女の心」って歌われてる。越路吹雪版が「男の心」なので、歌詞カードが間違っているんだと思う。

悪い星の下に（BORN UNDER A BAD SIGN）

作詞・作曲／W.Bell & B.T.Jones
日本語詞：忌野清志郎

オリジナルはアルバート・キング（Albert King）の1967年の作品「Born Under A Bad Sign 」。

イマジン（IMAGINE）

作詞・作曲／J.Lennon
日本語詞：忌野清志郎

オリジナルはジョン・レノン（John Lennon）の「Imagine 」。
意訳でなく、できるだけ直訳にされているが、この訳のセンスは素晴らしい。
後半、「窓の外は雪」からの歌詞「ぼくらは薄着で笑っちゃう」のリフレインのアイデアもいい。
大きな夢を見つつも、実際一人一人の力は弱く、「薄着」でしかない。でも「君一人じゃない」というフレーズと重ねることによって、「一人一人は弱い存在だけど、みんなが同じことを思えば、きっと夢を実現できる大きな力になるんだ」ということを歌っているように思える。